今回は、当院で抗がん剤治療を行った「犬の多中心型リンパ腫」の症例をご紹介させていただきます。

症例

サクラちゃん、バーニーズ・マウンテン・ドッグ、8歳、避妊メス
体表にあるリンパ節が複数腫れていることにご家族が気づき、かかりつけ病院を受診、リンパ節の切除生検を受けられて「B細胞性多中心型高グレードリンパ腫」と診断されました。
かかりつけ病院の先生とご相談の結果、抗がん剤治療を希望され、当院をご紹介いただき受診されました。
来院時の身体検査にて、下顎、浅頚、腋窩、鼠径、膝窩リンパ節の腫大を認めました。元気や食欲などの体調には異常はなく、普段通りとのことでした。

検査

リンパ腫は、血液中のリンパ球が腫瘍化する疾患のため、発症時点で血液を介して全身のリンパ節が腫れたり、腹部や胸腔内の臓器にも腫瘍の浸潤がみられる場合が多く、病変の拡がりを基に病気の進行度(ステージ)を確認します。
サクラちゃんは全身のリンパ節が腫れていることに加え、腹部超音波検査を行ったところ、脾臓への病変浸潤が認められ、「B細胞性多中心型高グレードリンパ腫ステージ4」と診断しました。

治療

上述の通り、リンパ腫は血液を介して全身に拡がる疾患であるため、治療は外科手術や放射線治療ではなく、全身に効果がある化学療法(抗がん剤による治療)が主体となることがほとんどです。
ご家族には、化学治療の様々な選択肢やメリット、デメリット、ご自宅での注意事項などをお話しし、ご相談した結果、多剤併用療法という抗がん剤治療を選択されました。

多剤併用療法とは、いくつかの抗がん剤やステロイドを組み合わせて行う治療法で、犬のB細胞性高グレードリンパ腫に対しては有効性が高いとされています。サクラちゃんの場合は、プレドニゾロン、ビンクリスチン、シクロホスファミド、ドキソルビシンを組み合わせ、毎週~隔週のペースで通院していただき、治療を行いました。
治療への反応は非常に良好で、1回目の抗がん剤投与後より顕著なリンパ節の縮小を認めました。幸い、重度な副作用が起こることはなく、予定していた抗がん剤治療は終了しました。
治療終了後は、リンパ節や肝臓、脾臓の細胞診検査を行い、腫瘍細胞が顕微鏡下でもいなくなっていることを確認し、治療終了としました。

治療終了後は1ヶ月毎にリンパ節の触診や腹部超音波検査による定期検診を行っています。
現在、治療開始後2年経過しますが、再発はなく、経過は非常に良好です。

まとめ

「多中心型リンパ腫」は、体表近くのリンパ節が腫大するため、ご家族が日頃のスキンシップで見つけて受診してくださることが多い疾患の1つです。発症初期は元気であることも多いのですが、進行すると全身に様々な症状が出て、命に関わります。
治療への反応性や予後は様々であり、治療にはご家族のご理解とご自宅での注意深いお世話も非常に大切なものとなってきます。

当院では、リンパ腫のタイプや進行度、全身への影響などをしっかりと評価した上で、ご家族に愛犬・愛猫の病気の状態や特性、治療についてご説明し、それぞれのご家族のご希望に添いながら、一緒に治療や今後の生活についてご相談するようにしております。
愛犬・愛猫が悪性腫瘍と診断された場合、ご家族にとって非常に辛いことと思います。それでも、大切な家族のために何をしてあげたいか、一緒に考えていく手助けができればと考えております。

サクラちゃんは、幸いにも抗がん剤の効果が高く、重度の副作用もなく治療を終え、完全寛解という状態が非常に長期間維持できており、経過は良好です。これからも、定期検診をしっかり行い、かわいい笑顔をみせてもらいたいと思います。

この記事を書いた人

岡田 憲幸

岐阜大学応用生物科学部獣医学課程を卒業。卒業後は都内動物病院(副院長)や松波動物病院メディカルセンターに勤めたのち、2023年に東郷がじゅまるの樹動物病院を開院。日本獣医師会、愛知県獣医師会、日本動物病院協会、獣医麻酔外科学会、日本獣医がん学会所属。日本動物病院協会 総合臨床医、日本動物病院協会 外科認定医資格所持。